安酒

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学生時代、ゼミのF教授には色々とお世話になりました。
1回生の時、何気なく選んだ政治思想史の担当でした。
とっつきにくそうな無愛想な教授でしたが何となく惹かれるところがあり、
政治にも興味があったので3回生でゼミを選択するときに迷うことなくF教授のゼミを志望しました。
この選択は大正解?でした。

先ず一つ目は少人数(7人)のゼミだったことです。
この教授の人気の無さと人数を増やすことに全く興味の無い性格の為せる技でした。
おかげで毎週のゼミに出てくるのは多くて4〜5人、少ないときは2人でした。
ですからゼミは勉強というよりも雑談のようなものでした。

二つ目は私がにらんだ通り、大がいくつも付くような酒飲みだったことです。
土曜日の2講目がゼミでしたが私と友人の2人しか出席しなかったとき、教授が「今日はこれで終わりだからゼミはウチでやろう。」と云われ自宅へ招待して頂きました。
この事があんなに恐ろしいことになるとはその時夢にも思いませんでした。

2講目というのは午前中の後の方でそれが終われば昼食です。
貧乏学生の私たちは当然ながら朝食抜きで昼食を心待ちにしていました。
教授の家に着いたのは11時過ぎでした。
部屋に入るとすぐ教授が一升瓶を持って入って来られ、嬉しそうに「この酒は安いんだ。」と云われました。
見ると何と生協が出している酒で値段は600円だそうです。
貧乏学生の私たちでさえ普通の2級酒を900円ぐらい出して飲んでいるのに
学部長になるのを厭がり(忙しくなると酒を飲む時間が減るから)逃げ続けている60歳前の教授が合成酒を飲んでいるとはただびっくりするだけでした。

さてその酒をコップについで飲み始めると教授の奥さんが軽い酒の肴を持ってきてくださいました。
空腹の私たちは瞬くうちにそのつまみを食べましたが、教授は殆ど食べず、しゃべって飲んで満足そうでした。
空きっ腹に安酒がこたえて、私は恐る恐る「先生はあまり食べられないんですね。」と云うと「ワシは飲み屋でつまみは?と聞かれたら鼻をつまんで飲むと云うんだ。」と得意げに答えてくださいました。
奥さんも酒飲みを充分理解?されてかその後何も持ってきてくれません。
やけになって飲んでいると3杯飲んだ頃から頭痛がしてきました。友人にそっと云うと彼も痛いと云います。
安酒の力は素晴らしいと感じました。
2時間経った頃、やっと次の肴が出てきました。
これもすぐ無くなり本当に焼け石に水でした。

この続きは次回のお楽しみ