大物 Yさん その3

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Yさんと一緒に福山駅のすぐ近くの店で働いていた頃

ある男が立飲み屋を見つけてきました。

私達が働く店から50mの所にある普通の酒屋ですが

その酒屋の入り口のすぐ横にもうひとつ入り口があり

そこから入ると立飲み屋になっているのです。

そこでは瓶ビールでも缶ビールでも店の値段と同じで飲めるし

つまみもそこそこ乾き物を中心に置いてあるのです。

安いし面白いので私達はすぐ常連になりました。

入り口を入るとそこに新聞広告を15cm角に切ったものが

ひもで束ねられて掛けてあります。

それを各自1枚ずつ破りカウンターの上に置きます。

これがどういう意味かわかりますか?

実はこれが皿になるのです。

そして頼んだゲソ天やピーナッツをその紙の上に置き

ビールや日本酒を飲むのです。

コップはビール会社の名前が入ったものを出してくれ

日本酒は1杯ずつの量り売りです。

酒もつまみも頼むたびに金を支払う明朗会計です。

このシステムはロサンゼルスのハリウッド・ルーズベルトホテル1階のバーと

全く一緒でした。

アメリカの高級ホテルのバーと福山の立飲み屋が同じなんて面白いものです。

Yさんと飲んでいるとドアが開き一人の老人が震えながら入ってきました。

震える手でカウンターの上に100円置き、

「しょうちゅう。」

と消え入るような声でいうのです。

店のおばさんが4リットル瓶に入った焼酎をコップに注いでカウンターに置くと

震える手を伸ばしそれを一息で飲み干ししっかりした足取りで帰って行きました。

私達はあっけにとられました。

その老人はそれからも何度か見かけましたが

ある日入ってきたらおばさんが

「今日はもういけん、もう5回目じゃが。」

と言い、すがる老人を追い返しました。

そんなある日その老人にYさんが話しかけ

つまみを勧めたり1杯おごったりして仲良くなったのです。

私はよくやるなーと思いながら近づきませんでした。

それから数日経ったある日Yさんが

「あのじいさんが上で寝とったで。」

というのです。

私達の店は7階が食堂街になっていて

そこにはいくつかベンチが置いてあります。

空調の効いたそのベンチでその浮浪者らしき老人は

毎日時間をつぶしていたのでした。

すごい知り合いを作ったものです。